小川洋子さんは『薬指の標本』を初めて読んでから好きになった作家さん。
フワフワと掴みどこのない、今まで見たことも経験したこともない世界なのに、
不思議とぐいぐい作品の中に引き込んでいく、引力はすさまじいものがある。
その小川洋子さんが選んだ偏愛短篇箱というから迷わず手に取ってしまった。
読んだことのない作家さんがたくさんいて、どうかな?と心配したけれど、
・内田百聞 件
・江戸川乱歩 押絵と旅する男
・尾崎翠 こおろぎ嬢
・金井美恵子 兎
・牧野信一 風媒結婚
・谷崎潤一郎 過酸化マンガン水の夢
・川端康成 花ある写真
・横光利一 春は馬車に乗って
・森茉莉 二人の天使
・武田百合子 藪塚ヘビセンター
・島尾伸三 彼の父は私の父の父
・向田邦子 耳
・三浦哲郎 みのむし
・宮本輝 力道山の弟
・田辺聖子 雪の降るまで
・吉田知子 お供え
16人の作家さんの作品の最後に、必ず小川洋子さんの作品それぞれに対するエッセイが
はさまれていて、それを読むのも楽しみの一つです(*^^)v
内田百聞も『件』は、件の予言を聞こうと今か今かと集まった大衆に対して、
件の気持ちを描いた作品。周りからの過度の期待を向けられる苦しさや、
他者に言われたことを信じ、
自分の意思のない人間たちへの批判が込められている作品だと思います。
金井美恵子さんの『兎』の奇妙な気味悪さ、血生臭さは、読んだ後も後をひきました。
狂気的になっていく少女にだんだん恐ろしくなって、逃げながら追っている(物語)
ような不思議な感覚陥りました。
川端康成の『花ある写真』は、特別に魅力があるわけではない女性が卵巣をとって、
どこぞの結婚前の令嬢に自分の卵巣を移植するお話。
卵巣をとった女性にだけ、みさ子と名前をつけ作中主要人物にように描かれていますが、
病院の看護婦だったり、令嬢だったり、名前のない女性のほうが、
みさ子よりもうんと魅力的に表現されているのにとても違和感を感じます。
男は何も取りえがなくなってしまったように見えるみさ子に、特別な感慨を覚え、
妻が入院して留守の家に、みさ子を招き入れる。
みさ子も妻の使っている化粧台で平気で化粧をし、
心が美しい女性かと言われれば?はてなが浮かぶ。
男は結婚していった令嬢の中で、みさ子の卵巣を生き続けていると考える。
男性の幻想を描いたお話。はやく夢から覚めますように。
横光利一は『春は馬車に乗って』は、妻が病にふせ、看病を続ける夫の話。
病が深刻になるほど、妻の精神も病み、夫に理不尽なことを言ってみたり、
わがままをぶつけてみたり、夫は看病と家事、仕事に忙殺され、疲弊していく。
弱っていく妻、疲弊していく夫、二人の気持ちが病というものによって、
庭に咲くダリヤの花の情景とともに、トゲトゲしくなったり、時に労わったり、
すれ違ったりして苦しい。春になる頃知人からスイトピーの花束が贈られてきて、
妻はその花束に顔をうずめて静かに目を閉じる。
この詩的な一文で、夫婦の物語は180°変化する結末で終わるのだが、なぜかしっくり、
くるものがあり違和感なく受け止められるから不思議。
田辺聖子さんの『雪の降るまで』は、男女の相瀬は、しっとりとしていて、
みんなの理想、憧れをそのまんま作品にされていて、読んでいて羨ましい限り。
田辺聖子さんの作品がまた恋しくなりました。
今週もお疲れさまでした♪